That Means A Lot

幻想とじゃれあって 時に傷つくのを あなたは無駄だと笑いますか?

「かげきしょうじょ!!」に魅せられた男が初めて宝塚歌劇団を観てきた話 〜雪組「CITY HUNTER」/「Fire Fever!」〜

宝塚歌劇団。その名を聞いて何を思い浮かべるだろうか。大正時代から続く歴史。女性が男役を演じること。ステージ映えするように仕上げる濃いお化粧。トップスターが背負う羽根に代表されるギラギラな衣装。音楽学校。スターダム制度…。その独特かつ完結しているエンタメは、クルマで15分も走らせれば大劇場1年間な宝塚市内に1年住んでも「近くて遠い存在」でありつづけた。近いのだからいつかは行きたいねという話はよく夫婦間でしていたのだが、これだけまっさら知らない新たな業界(というか沼)に今から身を投げるのはなかなか大変なこと。どこかによいきっかけはありませんかと探す日々。

そんなある日、アニメ「かげきしょうじょ‼︎」の存在を知る。タカラジェンヌの卵である音楽学校生にスポットを当てたこのアニメ。笑いも、スポ根も、登場人物の背景も、女同士のどろりとした人間関係もあり。それらを含んでもテンポが良く、何より面白い。しかもいくらかの「聖地」はすでに巡礼済み。ようやく目の前に道が!そうとなればBSやWOWOWで撮り溜めていた録画を見てみる。「あ!これかげきしょうじょ‼︎で見たやつだ!」いよいよ高まる生観劇への機運。思い立ってチケットの販売状況を見ていると、まだ残りがある。It’s now or never。ここまでくれば百聞は一見にしかず。予習は足りていないが、あとはとりあえず見て感じろ!8月20日、花のみちセルカにあるルマンで買ったサンドイッチで腹ごしらえを済ませ、「TAKARAZUKA」と書かれた門を潜る。

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入り口を過ぎると高級ホテルのような赤いカーペットにシャンデリアのような照明、そして見渡す限りの女性客。これまでスタジアムに通いつめた男が落ち着いていられるわけがない*1。終始キョロキョロしながら席につき、やがて幕が上がる。

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駅近。ホームグラウンドとグッズショップのみならずレストランもホテルも育成施設も併設。サッカークラブであればまさに理想の環境だ。

演目は雪組の「CITY HUNTER」と「Fire Fiver!」。ミュージカルものとショーの組み合わせ。だいたい1時間半のミュージカルに35分の休憩を挟んで1時間くらいのショーの流れ。これを毎日やるとはなかなかタフである。

まずは「CITY HUNTER」。少しの掛け合いの後にオープニング。まさに美の迫力…いや美の暴力。人が多い。そして皆でかい。人間は初めてや想定外の体験に対してつい語彙力を失いがちだが、男役、女役とされた女でも男でもない40人くらいの何かがステージの上で一気に踊るそのエネルギーやその迫力は文面はもちろん、テレビの画面じゃ伝わらない。すげー。半端ねー。よくみると男役と女役で踊り方が微妙に違ったりしてもう目が足りない。CITY HUNTERGET WILDとXYZくらいしか知らないほどに疎かったが、登場人物が出てくる際は自己紹介あるいは他己紹介をしてくれるし、人によっては歌だって歌っちゃうもんだから誰にでも理解ができる*2。ロマンスあり、ハンマーあり、戦闘もあり。そしてスッキリする内容で初心者にも優しく、純粋に楽しめた。冴羽獠役の彩風咲奈さんの歌うGet Wildはバッチリキマっていたし、槇村香役の朝月希和さんは、昨年は花組の「はいからさんが通る」で妖艶な芸者さん役だったのだから、その振れ幅にも驚かされる。

それにしても今回のような少年マンガを原作に、歌と踊りとロマンスの要素も取り入れてタカラヅカ向けに煌びやかに仕立てあげること自体まず荒技すぎる。どうやっているか考えてみたが、まず前提として「女たらしが主人公のハードボイルドものね。ストーリーはある程度は原作に忠実に、でも1時間半くらいで飲み込めるようある程度は端折って。あ、もちろん『もっこり』とかの下ネタなしでね。あと登場人物にスキンヘッドいるからなんとかして。それとステージは東京でも流用できるように…」いやいや前提が長すぎる。少し考えるだけでもシガラミしかないぞ。

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幕が上がる前は撮影自由。みんな写真を撮っていた。

続いてショーオルケスタ「Fire Fiver!」。ショーはこれまでの人生で正真正銘の初体験なので、どう言ったら良いのかわからないが、その熱く掻き立てるようなエネルギッシュかつ独特な世界観は、例えるなら熱を出した時に見る夢のよう。

トップの2人が皆と異なる衣装で華やかに舞い。皆が歌うところでマイク音量を調節しないもんだから大音量に鳥肌。ロケットと言われるラインダンスは総勢70人越え。こんなに多い今回はレアだとか。ラインダンスを生で見るのが夢だった私へはありあまる出血大サービス。「これが、宝塚の、世界…。」とマスクの下の口はあんぐりと開いていた。ちなみにFire Fever!は曲長がデヴィッド・ボウイのSaviour Machineに似ていて、思い出すとどうしてもこっちになってしまう。 

そんな中、ひとりものすごい目ヂカラと歌声をだす方に*3目を奪われる。雪組No.2の朝美絢さんである。シティハンターでのミック・エンジェル役もカッコ良かったが、Fire Fiver!では出てくるたび「さあさあワタクシを見なさい!!」と言わんばかりの美貌に美声に目ヂカラ。男役に目を奪われるとは自分でもびっくりではあるが、自信に満ち溢れた立ち振る舞い、キザどころじゃすまないその姿は到底シャバに持ち込むことは出来ないし、ロックスターのように男の男らしいところが削ぎ落とされているあたり、男役は純粋に男よりもカッコいい別の存在である*4。しかし動画や画像を漁ると「素顔」の朝美絢さんも出てくる訳で、男役とはいえ元は女性。なので女性らしい一面も見せる時があってこれがまたギャップ…いやそもそもは女性なので本来これがギャップではなくてそもそもステージの姿がギャップ…あれ?脳がバグを起こしている。

そんなこんなで、もっとタカラヅカを浴びたいと思ってしまう自分がいる。さっきもラジオ関西の「ビバ!タカラジェンヌ」も聴いちゃったし*5花組のショーではポルノグラフィティの狼とジョバイロが演目に入っていたことを知って驚いている。なにそれ早く言ってよ。他の組も見てみたいし、U-NEXTの再加入を考え始めている。もう片足首は沼の中なのかもしれない。

*1:これでも演目の関係で男性が多めだったらしいが

*2:ミック・エンジェルの歌なんて、原作にはないでしょ?

*3:双眼鏡越し。10×25くらいあれば2階からでもお顔がしっかり見えます

*4:『男役と言えどもあれは男じゃねえ』と「かげきしょうじょ!!」の安道先生が言っていた(9巻)。

*5:ちょうどゲストが朝美絢さんでした。声が低くてびっくり!